【ふくしまイノベびと】まちを創る復興トマトを支えるイノベびと

ひと しごと もの こと ~南相馬復興アグリ株式会社 成川 凌(49歳)~
2019-02-20

フォークリフトのハンドルを軽やかに操り、無駄のない動きで選果場を動き回る成川凌さん(49歳)。いろいろな表情を見せてくれる人だと思った。

今回、取材で訪れたのは、南相馬市にある南相馬復興アグリ株式会社。1.5ヘクタールの温室内では、通年を通じてトマト栽培をおこない、年間約660トンのトマトを出荷している。地域内雇用の創出と次世代の農業経営人材の育成、そして、地域農業の復興・成長に貢献を目指している。

成川さんは、選果・出荷の責任者として、スタッフ管理や出荷計画に基づいた出荷の段取りなど多忙を極める。

もともと福島とは縁もゆかりもない生活を過ごしていた。新しい仕事を志したとき、選択肢の一つとして「農業」があった。震災復興の支援という大義を持ってというよりは、トマト菜園の立ち上げという新規創業に携われるということに魅力を感じて南相馬市に移住した。周りの知人たちは、南相馬市のある浜通り地区に移住することに対して少し心配していたという。しかし、成川さん自身は、原子力災害による影響について、特に心配はしていなかったという。なぜならば、そこに住んでいる人がいるから。

個人的には、福島に移住することに対して、震災の復興支援を行いたいとか大義がなくてもよいと思う。そこに魅力的な仕事があり、暖かく受け入れてくれる環境があるならば。仕事がきっかけとなって、福島に定住してもらい好きになってもらう。そのためにどのようなことが求められているのか考えていく必要があると思う。

話はそれてしまったが、仕事をしているときの成川さんは色々な表情を見せる。

フォークリフトに乗っているときの表情。

パソコンで出荷状況を確認するときの表情。

菜園をバックにトマトをもって撮影したときの表情。

スタッフの方とお話をしているときの表情。

そして、今回の取材をしているときの表情。

例えば、菜園をバックに撮影した時の成川さんの顔からは、自分たちがつくるトマトに対する自信を感じる。農業と聞くと「栽培」をイメージする方が多いと思う。しかし、最終的には「出荷」をしなければ、せっかく作った農作物も廃棄せざるを得ない。

スタッフが一生懸命栽培したトマト。

このトマトをしっかりと出荷することが自分の仕事であり、責任だという。

毎日が勝負の世界。

プレッシャーもあるが、仕事のやりがいでもあると話す。

この菜園で働くスタッフは10~80代と幅広い。80代の方のスタッフも自分の年齢の半分ぐらいの責任者からの指示に対して、しっかり仕事をこなしてくれているという。

これまで様々な経歴を重ねてきた方たちと一緒に仕事をするということ、スタッフが気持ちよく働いてもらうためにはどのような環境が求められるのか、日々考えながら仕事をしているという。そして、スタッフと共に同じ志をもって取り組むことに会社の一翼を担っていることにやりがいを感じるという。

飄々とお話する成川さんからは、相手が何を考え、そして、相手を思いやる気持ちに溢れていた。逆に自分自身のことをお話するときは、少し照れくさそうな表情を見せる姿が印象的だった。

今回、インタビューをした福島県立相馬高等学校新聞局の山本風佳さんと門馬彩華さんから「社会に飛び立つ学生に対してのメッセージ」という質問があった。

取材中の成川さんは、高校生がリラックスして取材できるよう冗談を挟みつつ笑いの絶えないインタビューだったが、真剣な表情で語り始めた。


仕事は、遊びではないから報われないことや難しいことがたくさん起こるかもしれない。苦しいこと、泣きたくなること、辞めたいと思うことが起きるかもしれない。そうしたら、泣いてもいいし、辞めてもいいと思う。けれど、続けてみることも大事ということは覚えておいてほしいということ。続けていくということに対して無駄はないということを。

2015年10月から稼働し、9万本のトマトの苗木と共に働くスタッフと菜園を支えてきた成川さん。インタビューの最後に「将来の夢」について聞いてみた。

70名のスタッフをまとめ、いかに効率よく出荷させるか、そして、スタッフに生き生きと働いてもらうために尽力している成川さんがどのような「夢」を持っているのか興味深かった。

「夢というより希望だな」とつぶやく。

福島に移住してから、そして、自分自身を振り返りながら。

「平」

1文字だが、そこに、「和」をつけ足せば「平和」になる。また、日々暮らしていくなかで人の悪口を聞いたり、足を引っ張りたりすることを目にすることがある。相手を傷つけて暮らしていくよりは、できるだけそういう生活はしたくないし、もっと穏やかに生きていけるような社会になってほしいと。


将来の夢を語っている成川さん表情は、穏やかだった。

●南相馬復興アグリ株式会社(南相馬トマト菜園)
2015年11月に完成した1.5ヘクタールの温室内で、通年でのトマト栽培を実現。年間約660トンを出荷する。農業経営人材を育成して地域に輩出・連携することにより、地域農業の復興・成長に貢献することを目指す。
(文:株式会社フラクタル 菅野秀和)

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